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本土で4人目の出産へ。島の夫婦の決断とは【産めない島の産声ストーリーvol.1】

  • 執筆者の写真: しまの授乳室事務局
    しまの授乳室事務局
  • 9月12日
  • 読了時間: 5分

更新日:10月21日

2025.10.21追記

Aさんは、当初佐世保市の個人クリニックで出産予定でしたが、10月に上五島病院から発表された「分娩は県内4カ所の病院(総合病院・大学病院)に限る」の通達を受け、個人クリニックから大きな病院への変更を余儀なくされました。


3人のお子さんがいる状況で練りに練った計画を突然変更することになり戸惑っている彼女。このような対応を迫られている妊婦さんが他にも上五島にいます。

彼女たちの心のケアやサポートが十分でないようで心配です。


以下は、9月に取材した内容です。

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新上五島町に暮らす30代のAさんご夫婦。

Aさんは新上五島町出身で、奥様は結婚後上五島へ移住されました。7歳、5歳、1歳の3人の男の子を育てながら、この冬には4人目を迎える予定です。

けれども「上五島病院の2025年9月末での分娩休止」という大きな環境の変化により、出産の場を島外に求めることになりました。今回は、出産に向けた準備や家族への想い、そして島の未来についてお話を伺いました。

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出産をめぐるスケジュール

妊娠がわかったのは2025年春。「そのときはまだ、上五島病院で産めるか産めないか不安定な状況でした」と奥様。

妊娠3か月ごろ、6月に上五島病院の住民説明会に参加し分娩休止が決まったことを知りました。「“ああ、決まったんだな”と感じた瞬間でした」


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その決定を受けて、すぐさま佐世保市の東島レディースクリニックを予約。「どこで出産するかは迷わずに決められました」

ここで出産した経験のある島外で暮らす友人の評判が良く、佐世保港からのアクセスの良さも決め手だったからです。


妊婦検診は上五島で受けつつ、妊娠後期に差し掛かる11月中旬からは、次男・三男を連れて実家に身を寄せ、2026年1月の出産を迎える予定。

出産後はご実家で2~3日ゆっくりした後、上五島に残る夫と長男のことを考えて早めに上五島へ戻る計画を立てています。


分娩の不安は尽きない。里帰りが安心とは言えないわけ


「4人目なので陣痛開始から出産までが早い可能性もあり、実家でお産を待つ間に何かあったら…」の不安から計画分娩(事前に出産日を決め人工的に分娩を進める)を決めたAさん夫妻。実は奥様のご実家がある場所も上五島同様“分娩空白地(市内に分娩ができる病院がない)”で、実家から産院までは車で1時間半かかるそうなのです。「もし実家で破水したら間に合わないかも」と医師から伝えられており、里帰りとはいえ安心できない面もあるようです。


計画をたてても何が起きるかわからないのが出産


さらには奥様自身の血圧が高めで、今後ハイリスク出産になる可能性があるのも不安の一つ。「自身のことだけでなく子どもたちのこと、実家の家族のことも考えた計画なので、自分の健康面のことや万一の予定変更が怖いです。本当は上五島病院で産みたかったです。島外だと上の子どもたちの生活も大きく変わってしまうので」

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夫として、父としての願い


一方Aさんの想いはというと…。「島外で不安も大きいけれど、安心して産めることが一番。でも家族が離れ離れになるのは辛いです。長男に“11月からママと弟たちはママの実家で暮らすんだよ”と伝えたら泣いてしまって…。それでも何より無事に生まれてくれることを願っています」

ただ、もし出産が始まっても船や仕事の都合で立ち会えない――そのことがきっとこれからも悔やまれると話します。

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家族が別々でも、それぞれの地で助け合いたい


そんなお二人ですが、上五島で長男と残る予定のAさんも、実家に子ども2人と身を寄せる奥様も家族のサポートを受けられる状況には安心感を覚えています。

「妻の実家のご両親がウェルカムな雰囲気で、それは良かったなと思います。次男と三男は新上五島町の保育園から島外の保育園に転園して一時的に通うことになりますが、妻のご両親もいて安心です。

上五島にも私の親が近くにいるので、完全な男二人暮らしではないかな…。」助け合いの気持ちがこのお産を支えている、そんな風に家族のサポートを感じています。

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出産は不安だけど楽しみも。ただ疑問は完全に解消せずまだ残っている。


不安の中にも、奥様には少しの楽しみがあります。

「実家でゆっくり過ごせることが楽しみですね。里帰りは1年ぶりぐらい。それから本土の友人に会えるのも嬉しいです。出産については、お世話になる産院は豪華なごはんがおいしいと評判で、エステやヘッドスパもあり楽しみにしています」と笑顔で語ってくれました。

一方で制度面への疑問も。「今回は実家なので宿泊費はかからないけど、交通費は妊婦本人だけに支給される仕組み。子どもを連れて里帰りする家庭もあるので、そこの配慮がほしいなって思ったり。そして広報誌などで最終決定した補助金のことをお知らせがあったらいいなと思います。補助があるのかないのか、何が正しいのか詳しく知らないのです」


また、医療現場の情報の食い違いを感じることもあるそうです。「上五島病院はハイリスク妊婦になった場合“総合病院に紹介状を書きますね”と提案するのに対し、出産予定のクリニックは“ここで産めます”と言ってくれる。結局どうしたら…?」


上五島で新しい命が続いてほしい


新しい命を迎える喜びと同時に、現実的な課題に直面しているAさんご夫婦。

これから出産を考える後輩たちの参考になればと話してくれました。分娩休止という大きな変化に戸惑いながらも、不安の中でも楽しみを見つけ、新しい家族を迎える準備を語るご夫婦の笑顔が印象的でした。


しまの授乳室は、新上五島町で産めなくなる現状に直面する妊婦さんとご家族の姿をこれこらも見守りつづけます。

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